すべてまるっとお見通し

日常

 寒い。

 急に寒くなっている。先週は最高気温が25℃前後あったのに、今週は15℃前後しかない。急に10℃も下がっている。これは寒いわけである。にも関わらず、私たちは澄ました顔をして、「急に寒くなりましたね」などと世界一安全な世間話に勤しんでいる。こんなにも余裕でいられるのは、私達がある程度見通しのある生活をしているからである。

 今のペースで気温が下がり続けたら、来週は5℃になる。再来週には氷点下を下回り、来年5月には絶対零度である。地球上の全ての運動が止まってしまう。これはエマージェンシーだ。しかし、そうはならないことを私達は知っている。気温は緩やかに下がり続けて、東京だと0℃を下回ることはほとんどない。下がり切った後は少しずつ暖かくなり、希望の春がやってくる。毎年同じパターンだ。正確な未来は読めないけれど、大体のパターンはわかっている。何が起きるか予測が立っていること、これが見通しのある状況である。

 私が仕事で日々関わっている虐待を受けている子どもたちの家庭生活は、まさに見通しの立たない生活である。何がきっかけでいつ親から殴られるかわからない。いつご飯を食べさせてもらえるかわからない。今日は楽しく過ごしていても、明日は命が危険に晒されるかもしれない。一寸先は闇だ。何が起こるか分からない生活は非常に恐ろしい。

 そうした子どもたちに必要なことは、見通しのある安心な生活だ。虐待がないことはもちろんのこと、毎日大体決まった時間に大体同じことが起きる、という体験の積み重ねが大切だ。見通しのある生活は安心感につながるのである。

 突然の寒さの中で、そんなことを考えながらコンビニの肉まんを買って帰る。私たちがこの寒さに耐えられるのは、春が来るのを知っているからである。見通しが立たず寒さに震える子ども達には、暖かい春が来ることをそっと伝えてあげたい。

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