湯とり世代と畑毛温泉

日常

 温泉旅行に来ている。

 温泉の聖地、伊豆。畑毛温泉(はたけおんせん)である。畑毛温泉は「ぬる湯」で知られる湯治の場、のようである。浴場にデカデカと書いてあったので間違いない。熱海の温泉街から車で10分。ひっそりとした、だが由緒正しき温泉である。

 私はグツグツでアツアツのお風呂が好きなのだが、世知辛い世の中である、たまにはぬるま湯に浸かるのも良いかと思い、来湯するに至った。「来湯」という言葉があるかは知らないが。

 チェックインもそこそこに浴場に向かう。シャコシャコと洗体をすませて、入湯。ぬるい。ぬるいというか、冷たい。間違えて水風呂に入ったか、と思うほど冷たい。それもそのはず、畑毛温泉の源泉は30度だ。水風呂は言い過ぎだが、室内プールと同じ程度である。冷たい。「入湯」という言葉があるかは知らない。

 冷たい。ぬるい。私は平成の初めに生を受け、「ぬるま湯に浸かったゆとり世代」と揶揄されながら生きてきた、そういう世代である。何となく、ぬるま湯の中で育ったことに後ろめたさを感じながら大人になったが、ぬるま湯って果たしてそんなに良いところか?と疑問が湧く。

 日本では、緊張感や刺激のない環境に甘んじて、のんびりと気楽に過ごすことを「ぬるま湯につかる」と表現する。だがぬるま湯ではぬるい。湯冷めしてしまうので、温かいお湯に浸かりたい。「適温の湯につかる」に今からでも変えられないか。言葉を正しくしていきたい。と思った矢先、ぬるいは漢字で書くと「温い」だと知る。知らなきゃ良かった、主張がブレる。

 ちなみに畑毛温泉のフォローをしておく。浴場には源泉のぬるいお湯だけではなく、加温された40度近いお湯も用意されている。そして、30度のぬるいお湯でも、ずっと浸かって耐湯していると、次第に芯までじんわり温まってくる。温泉の効能はパワフルである。「耐湯」という言葉があるかは知らない。

 食事も最高に美味しく、くつろぐことができて素晴らしい温泉であったことを、最後に記しておく。またぬるま湯につかりたくなったら来湯したいと思う。「来湯」という言葉があるかは知らない。おそらくない。

 

 

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