プラシーボ憲兵団

日常

 思い込みの力は偉大だ。

 我が家のお米は「米唐番」が守っている。「米唐番」というのは米びつ用の防虫剤である。唐辛子型のケースの中に、有効成分と思われる赤いゼリー上の物体が煌めいている。このお陰で、お米に虫が湧くことがない。高床式倉庫にしなくても安心安全のお米が毎日食べられる。幸せである。

 ところがこの、赤いゼリーが中々減らない。米びつのお米が尽き、新しいお米と交換する。その度に中身を確認するが、減っていない。効果が長持ちにも程がある。1年経っても外観が変わっていない。荒木飛呂彦先生のように吸血鬼になっているのだろうか。愈史郎くんのように鬼にされているのだろうか。そう思うと恐怖すら感じ、無意識に距離が遠のく。

 更に一年。変化がない。おかしい。もう2年も経っている。そう思い、隈なく調べてみる。唐辛子のヘタの部分が外れることを発見する。更にその中に、中蓋がついている。嫌な予感がする。

 中蓋を外すと、ほのかに唐辛子の匂いがする。この段階で全身に虚脱感が襲ってくる。ネットで調べる。この「米唐番」、中蓋を外さないと効果を発揮しないようだ。2年間、当番をサボっていたのだ。いや、「米唐番」本人ですら、お米を守っていると思い込んでいたかもしれない。戦士であるライナー・ブラウンも巨人から調査兵団を守っていると思い込んでいたように。

 だが、裏切られた気持ちにはなれない。この2年間、私は安心してお米を食べることができていたのだ。「米唐番」への感謝の気持ちすらある。ライナーに救ってもらった命もあるのだ。

 思い込みの力は偉大だ。

 心理学の中に「プラシーボ効果」という概念がある。プラシーボというのは偽薬、つまり本来は薬として効果をもたない物質のことである。偽薬であっても、医師に処方されたり暗示をかけられたりして「効果がある」と思い込んでいると、一定の改善効果が見られることがある。この現象を「プラシーボ効果」という。

 まさに思い込みの力である。実際には効果のないことでも、思い込みの力で効果が出る。「信じるものは救われる」である。特に子どもは暗示にかかりやすいため『痛いの痛いの飛んでいけ』等のおまじないの類もきちんと効果があったりする。

 中蓋を取り忘れても効果を発揮した「米唐番」さんから、プラシーボ効果について話が広がった。だが「米唐番」さんはきちんと有効成分が入っている。偽薬扱いされたら真っ赤になって怒るかもしれない。今日もお米がうまい、ありがとう。媚を売って筆をおく。

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