カムバック、マイバッグ

日常

「あなたのバッグ、あきらめないで!」

 仕事の帰り道だ。こんな謳い文句に足が止まる。革製品の修理を承るお店らしい。右手のビジネスバッグをみる。

 合皮だがデザインが素敵で、もう4年近く使っている。家庭訪問で虐待加害親にバッキバキに怒鳴られた時も、職場の会議でメタメタに叱られた時も、地域のカンファレンスでチックチクに刺されてた時も、ずっとそばにいてくれた。一緒に数多の修羅場を乗り越えた、そんな相棒のようなバッグだ。

 ところが流石に革が傷んできた。金具もバカになっている。そろそろ寿命だろうか。諦めかけていたそんな私の心を、狙い撃ちしてくる広告に胸が躍った。

「あなたのバッグ、あきらめないで!」

 カウンターには誰も立っていない。「すみません」腹から声が出せないので、喉のあたりから絞り出す。店の奥から真矢ミキのようなお姉さんが出てくることを期待したが、真矢ミキと橋田壽賀子を足して2で割って、0.5真矢ミキを引いて2倍にしたようなオバちゃんが出てきた。

 事情を説明してバッグを見てもらう。オバちゃんは4秒ほどバッグを見て「あ~こりゃ無理だ」と一言。4秒。オバちゃんをカウンターで待っていた時間の方が長い。

「わたしのバッグ、あきらめないで!」

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