おいでシャンプー

日常

 美容室に髪を切りに行く。シャンプーの匂い。シャクシャクと心地よいハサミの音。自分の髪が短くなっていくのをボーッと眺める。日常から離れた穏やかな時間だ。

 しかし、今日は気が重い。初めて訪れる美容室だからだ。いつものお店はコロナの不況で潰れてしまったのである。初めての場所はいつでも緊張してしまう。

 一番苦手なのはシャンプーだ。椅子に座り、背もたれが後ろに下がる。そこまでは良い。リクライニングした後の頭の位置がいつも合わない。ちょうど良いポジションが取れないのだ。以前までの店でも、初めは毎回のように「もう少し上にあがれますか」と言われ、耳が少し赤らんでしまっていた。次こそはもっと深く腰掛けて座ろう、と固く胸に刻むのだが、次の来店時には忘れており、また耳が赤くなる。そんな繰り返しであった。

 来店を重ね、少しずつ慣れてくると、しだいに頭の位置を一発で当てられるようになる。だが、そのお店はもうない。今日は初めてのお店なのだ。

 頭の位置がなかなか合わない。初めての店であれば尚更である。今日は腰掛けが深かったのか、リクライニングした後の頭が上にいきすぎてしまった。恥ずかしい。店員さんに「もう少し下に行けますか」と言われ、微調整して何とか頭の位置を整える。なかなか丁度いい位置に頭を置くのは難しい。

 人と人とのコミュニケーションもこれに似ている。丁度よくチャンネルを合わせてわかりあうことは難しい。特に初めての人とのコミュニケーションは、必ずどこかズレたり噛み合わなかったりする。それは仕方のないことだ。

 大切なのはコミュニケーションを続けることだ。「もう少し上」とか「もうちょっと下」とか、そんな声を掛け合い、時に耳を赤らめながら微調整を続けていく。そうしていくうちに、少しずつチャンネルがあっていくのだろうと思う。

 新しい出会いは刺激が多い。ゆっくりと消化していきたい。

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