人間ドラマの再放送

日常

ドラマをぼーっと観た。

 正月は家でダラダラ過ごしたい。目的もなくテレビをつけていると、TVドラマの一挙放送がやっていた。なんのドラマかもわからないし、何話目なのかもわからない。誰が主人公なのかもわからないし、どんな人間関係なのかもわからない。

 そんな状態で30分、ぼーっとドラマを眺めていた。意外と味わい深い。

 10分ほど観ていると誰が主人公なのか、少し見えてくる。どうやら上白石萌音が主人公で、イケメンの俳優がその相手役のようだ。もう少し観ていると、主人公を取り巻く人間関係がわかってきて、さらにもう少しすると「あぁ、萌音ちゃんは今このことに困っているのね」と主人公の主訴が見えてくる。

 30分程度観たところで、私が外出することになったので、物語は中途で終わる。結局、過去に何があったのか、これからどう展開するのか、全てわからないままである。ただ、なんとなく萌音ちゃんが印象に残っていて、十分ドラマを味わった感覚はある。

 そもそも、私が心理の仕事で出会うクライエントは、基本的に面接室の中でしか出会わない。クライエントの人生についてはほとんど何も知らない。面接室の中でのやりとりのことしかわからない。

 クライエントがどんな思いで相談にやってきたのか、今までどんな人生を生きてきたのか、これからどうなって行きたいのか。話を聞いていく中で少しずつ理解していく。それでもわからない事ばかりだ。

 私が知るクライエントは、クライエントの人生の一部を切り取ったものに過ぎない。それこそ、ドラマのワンシーン、ワンカットを見ているだけである。少し寂しい気もするが、そんなワンシーンの中には、クライエントのその人らしさが存分に詰まっている。

 クライエントの全てが理解できるなどということは到底できない。できたと思っていたらそれは奢りだ。結局、ドラマを全て見ることができたとしても、萌音ちゃんのことが全てわかるわけではない。例え30分だとしても、貴重な出会いに感謝したいと思う。

 よく知らないドラマをぼーっと眺めるのは、なんとも趣があって良い。

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