おつかいに出かけた。
私の働く児童福祉施設で体調不良の子どもが何人かでた。幸いコロナではなかったようだが、皆一様に胃腸が弱っている。お粥が必要だ。かくして大量の白粥が必要になった。
施設には備えがないので、白粥を買い出しに行かねばならない。しかし、ただでさえ忙しい施設職員が、今日は病児対応もしている。とても買いに行く時間はない。そこで、事務所で所見を作成している私が暇そうに見えたのだろう、白羽の矢がたった。
係長から二千円を握らされ、コンビニで白粥を10食分買ってくる、という任務を告げられる。だが、この辺りにコンビニなんてあっただろうか。土地勘のない私は、顔全体で不安を表現する。その様子をみて皆が助言をしてくれる。
「道に迷ったらこの番号にかけるんだよ」「小銭を落とさないようにね」「何も入ってない白粥を買うんだよ」
およそ30代男性にかける助言ではない。はじめてのおつかい状態である。とても不安になる。誰にも内緒でお出かけなのだ。
靴をはいて傘をさして、いざ出陣。近くのコンビニに無事に到着するが、白粥がない。いや、あるにはあるが、10食分もおいていない。パニックだ。一度コンビニをでて係長に連絡する。ホウレンソウである。
係長からは、もう少し離れたスーパーで買ってくるよう指示を受ける。めんどくさい。だが、どんなに納得がいかなくても、最終的に上司の決定に逆らうわけにはいかない。それが組織で働くということだ。大きな組織の中では私なんて歯車の一つに過ぎない。とぼとぼスーパーを目指す。
Googleマップをグルングルンに回しながら歩くこと10分。ようやくスーパーに着く。2階建てのスーパーだが、「食料品は2階」と書いてあるので迷うことなく階段を上がる。情報収集はデキル男の必須スキルである。白粥を求めていざ2階へ。
ない。ところがいくら探してもない。この広いスーパーから、白粥というたった一つの物を探すなんて、土台無理な話ではないか。見つからない焦りが怒りに変わっていく。これ以上職場に戻るのが遅くなると迷子になったと思われてしまう。恥を忍んで店員さんに聞く。
「あーすいません。お粥だと、1階になっちゃいますね」と申し訳なさそうに言われる。
1階になっちゃう。「なっちゃう」とはどういう意味だろうか。1階にある、ではなく、「1階になっちゃう」。コントロールが効かない、不本意なニュアンスがこもっている。2階におきたいのに、1階になっちゃう。今日こそ2階に品出ししよう!と思っていたのに、気がつくと結局1階になっちゃう。まいっちゃう。
そんな言葉の揚げ足をとっちゃう。疲れている時である。とにかく早く、白粥を10食持って職場に帰りたい。
やっとの思いで白粥をレジに持っていく。これでミッションコンプリートである。と思ったところで「袋はどうなさいますか?」と聞かれる。袋。どうしよう。普段だったら迷わず購入しているが、今日は仕事の買い物である。袋代も経費で落ちるのだろうか。
自分の財布は持ってきておらず、職場のお金しかない。職場のお金で経費にならないものを買っても良いのだろうか。横領にならないだろうか。ぐるぐると思考を巡らせるが、後ろに並んでいるおばちゃんからの圧に背中を押され「袋は大丈夫です」と言葉が出てくる。僕の心が僕を追い越した(ようじろう)。
結局雨の中、傘をさしながら、白粥10食を抱えて帰る。泣かなかったのでドレミファだいじょーぶである。
今日のエネルギーの8割は白粥の買い出しで消えた。しょげないでよベイベー。
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